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第39回 全国短歌フォーラムin塩尻 入賞作品

第39回全国短歌フォーラムin塩尻入賞作品を発表します!
全国から1,610首のご投稿をいただきました。誠にありがとうございました。

最優秀作品

  • 蜻蛉が五限の理科に迷い込み学級日誌の一面飾る
                       北海道 滝川市 武田 生吹

    ▲評 永田 和宏
    五限目の理科の時間に迷い込んできた蜻蛉。誰もが眠かった教室が、それだけで一気に盛り上がったのだろう。「学級日誌の一面飾る」という簡潔な結句で、その様子がよくわかる。
  • 音だけで君だとわかる靴底を少し引きずる右足が好き
                       長野県 塩尻市 児野 帆純
    ▲評 永田 和宏
    五感を集中して、「君」を感じていたいと思う作者だからこそ、目に見なくとも近づいてくる君の存在はいち早くキャッチしてしまう。「靴底を少し引きずる右足が好き」がいい。

優秀作品

  • 亡き祖父の湖の絵が窓際に光れる午後の時間に出逢ふ
                       東京都 世田谷区 高田 拓実
    ▲評 小島 ゆかり
    きっと西から陽差しが入る位置に、その絵はあるのだろう。平らかに描かれた湖面が静かに光る。亡き祖父の気配がふっと近づくような、「時間に出逢う」が魅力的である。
  • 幼稚園に戻ったような心地するひらがな名字の名札に替わり
                       京都府 京都市 後藤 正樹
    ▲評 佐佐木 幸綱
    高齢者向けの施設に入居した折の作と読みました。ひらがなで書かれた名札を付けたのでしょう。上句、簡潔かつ端的に状況を表現して、うまい。
  • 実は傘持ってるなんて言い出せず二人走って渡る信号
                       京都府 京都市 藤森 相貴
    ▲評 小島 ゆかり
    そういうこと、ありますね。日常のなかの、ちょっとしたなりゆきのおもしろさ。歌い出しの自然さと、「二人走って渡る信号」という若々しい動きとリズムが、歌を生かした。
  • 傘ひらく音とじる音聞きながらビニル傘買う上野駅にて
                       岩手県 盛岡市 日詰 菊
    ▲評 佐佐木 幸綱
    出先で急に雨が降り出したので、駅で傘を買っているのです。「音」の題詠で傘を買う事情をさり気なく表現したところは、工夫された表現で感心しました。
  • ブザー消え千人分の沈黙がわたしの歌い出しを待ってる
                       長野県 箕輪町 小林 泉
    ▲評 佐佐木 幸綱
    千人の観客を前に、いよいよ歌を歌いはじめようとしている場面です。会場の広さと緊張感がつたわってきます。初句「ブザー消え」も、なかなかの出だしです。
  • 一本の木が木琴となるために永遠に失ういくつかの音
                       愛知県 名古屋市 遠藤 翠
    ▲評 小島 ゆかり
    ゆたかな繁りが風にそよぐ音や、雨に濡れる音を想像する。木琴になる前に、一本の木であった生命を慈しむ深い感情が伝わってくる。簡潔な表現のなかの「永遠に失う」の力。

入選作品

  • 母になるあの子はあの子じゃないみたい電気ケトルのランプが消える
                       岩手県 盛岡市 日詰 菊
    ▲評 小島 ゆかり
    「母になる」、そうなったとたんに友だちのあの子が「あの子じゃないみたい」になる。なかなかうまく言えない心理を、平易な言葉でわかりやすく、しかし独創的に表現した。
  • 十万食食し卒寿を越えて生く胃ろう延命だけはのぞまず
                       福島県 西郷村 黒澤 正行
    ▲評 小島 ゆかり
    「十万食」という圧倒的な数と、「卒寿」という長い歳月。激動の時代を生き延びてきた人の、生きることは食べることなのだという強い意思表示が、胸にひびく。
  • 自決せし軍医は歯科医で先輩で六月の空青き沖縄
                       東京都 杉並区 岡崎 志昴
    ▲評 小島 ゆかり
    沖縄で自決したその軍医は「歯科医で先輩」であったという事実の記憶が、戦死者の一人ではなく、確かに生きていた一人として鮮やかな存在感をもたらす。簡潔で見事な展開。
  • 吾娘の家の天窓に見ゆオリオン座目覚めてしばし宇宙旅する
                       東京都 府中市 栗原 幸子
    ▲評 佐佐木 幸綱
    結婚して別の家に住んでいる娘さんの家に泊まったのでしょう。日本では珍しい天窓がある家なので、早朝から空を見上げているのです。下句、大づかみで、うまい。
  • 教室に誰もいなくてそれなのに話し声だけ残っていたよ
                       東京都 品川区 白河 隼
    ▲評 永田 和宏
    生徒らのさまざまな声が飛び回っていた教室を知っている作者なのだろう。今はしんと静かな教室だが、誰もいなくとも、彼らの話声だけはあざやかに、しかし、遠く聞こえるようである。
  • 他人(ひと)の死を指折り数へ待つてゐる母の入所は十三番目
                       東京都 東村山市 関根 高志
    ▲評 永田 和宏
    厳しい歌だ。老人ホームだろうが、そこへの母の入居の順番を待っている作者。順番を待つということがそのまま「他人の死」を待つことに他ならないという厳然たる事実。
  • じぶん自身そうやったから言わんけどこどもはいつも仏頂面や
                       東京都 世田谷区 中野 響
    ▲評 小島 ゆかり
    とりわけ思春期。成長過程の心身をもてあます時期は、なぜか不機嫌になる。子どもとして、また親としてだれもが思い当たる体験を、関西弁で詠んだところが断然おもしろい。
  • 道端の小石一つにあるドラマこれまでのことこれからのこと
                       神奈川県 横浜市 杉山 太郎
    ▲評 永田 和宏
    道端のなんの変哲もない小石にも、それぞれにドラマがあると感じる作者。どうなるかほとんど自分の意志が及ばないような運命に、自分を重ねるところもあるのだろう。
  • かくしごとひとつできない透明な魚にこわいものはないのか
                       福井県 おおい町 宮緒 かよ
    ▲評 佐佐木 幸綱
    透明な熱帯魚などをイメージすればいいのでしょう。身も心もすべて透明になってしまったときの心細さ。平仮名を多くして、やわらかい感じを出しています。
  • 「会いたい」と「会いたくない」が揺れ動く小さくなりゆく病室の母に
                       長野県 塩尻市 小林 芽久美
    ▲評 佐佐木 幸綱
    下句「小さくなりゆく病室の母」で、入院が長期にわたっていることが分かります。上句、うまい。母上の体調がよくないときは、あまり会いたくないのでしょう。
  • 追伸の一行やさし葉桜の魯桃桜に雨降りそそぐ
                       長野県 長野市 佐藤 彰子
    ▲評 永田 和宏
    「魯桃桜」とは不思議な名前ですが、長野に春を告げる桃の木だとのこと。その魯桃桜に雨が、という追伸の一行なのか、やさしい追伸の一行を読んだ後に魯桃桜に視線が行ったのか。いずれにせよこの固有名詞が効いている。
  • 「どうせ」「どうせ」私が「どうせ」を言ひ出したどうやら誰かに恋をしてゐる
                       長野県 松本市 堀内 悠子
    ▲評 永田 和宏
    この「どうせ」は、叶わないことを前提にした「どうせ」なのである。強がっているように、あるいは先回りして嘆くように「どうせ」という言葉が出てくるようになるのは、まぎれもなく恋の前触れである、と。
  • 亡き妻の椅子としいまも置く庭に旅の便りを小鳥がはこぶ
                       静岡県 浜松市 大庭 拓郎
    ▲評 小島 ゆかり
    その椅子にはたまに小鳥が止まったり、小さな木の実がこぼれていたりするのだろう。やさしい一首のなかに、眼差しを遠くするような、さびしい一人の姿が見える。
  • 降る雪の終端速度ゆるやかに地球は天へ傾きゆけり
                       愛知県 北名古屋市 小林 紗矢香
    ▲評 永田 和宏
    「終端速度」という科学用語がうまく使われている。雪がふわりふわりと落ちてくる速度が、そのまま地球が天に傾いていく速度だと感じたのだろうか。大きな歌だ。
  • キッチンのゴム手袋の手を上に向けて外科医の気分で洗ふ
                       愛知県 名古屋市 清水 良郎
    ▲評 佐佐木 幸綱
    映画などで見る手術の準備をする外科医の映像を思い出せばいいのでしょう。キッチンの仕事をしながら、ふと心に浮かんだ連想の楽しさ。いいですね。
  • 赤松と黒松の根にゆっくりと清酒を注ぐ明日は伐採
                       北海道 札幌市 尾澤 瑠璃子
    ▲評 佐佐木 幸綱
    この赤松と黒松は、ともに樹齢何百年もの古木なのでしょう。伐採前日の儀式に取材しての一首。「ゆっくりと清酒を注ぐ」がクライマックスを象徴して、うまい。
  • 開きたるばかりの昼の男湯に桶の置く音たかく響けり
                       北海道 帯広市 鎌田 博文
    ▲評 佐佐木 幸綱
    「桶の音」を中心に一首をまとめて成功しました。まだあまりお客さんがいない開店すぐのお風呂屋さんですね。「音」に焦点をしぼった気合いに注目します。
  • 音も無く雪降る夜はただ青くあなたの声が聞きたい とても
                       北海道 札幌市 後藤 明美
    ▲評 小島 ゆかり
    「あなた」は、もしかしたらもうこの世の人ではないのかもしれない。底深い静けさのなかの切ない願いが、ふとそう思わせる。呟くようなリズムの呼吸がいつまでも胸に残る。
  • 幼子の映る画面が暗転しマイクが拾うガザの爆撃
                       岩手県 遠野市 森内 詩紋
    ▲評 永田 和宏
    悲惨なガザの景をどのように切り取るか。幼子を映していた画面が暗転したのちに、爆撃のすざまじい音が聞こえたことで、暗転前の幼子のその後がいっそう沁みて思われる。
  • 柔らかき雨音ときに滝落(たきおとし)湯治宿にて梅雨入りを知る
                       宮城県 涌谷町 武田 悟
    ▲評 小島 ゆかり
    「滝落」とは、まるで滝が落ちるようなどしゃぶり。「柔らかき雨音ときに滝落」という表現のなかにある言葉とリズムの緩急がすばらしい。聴覚に集中した「音」の秀歌。
  • 折りたたみ傘の雨の音風の音を全部たたんで試験へ向かう
                       埼玉県 熊谷市 岩本 実佳
    ▲評 小島 ゆかり
    荒れた天気の日だったのか、あるいは傘が記憶しているこれまでの雨や風の音も意識したのかもしれない。試験へ向かう気持ちを、独自の場面とそれを生かすリズムで表現した。
  • 足音でわかると言えるほどの恋 見上げる遠い水面のひかり
                       長野県 長野市 有賀 拓郎
    ▲評 永田 和宏
    最優秀作と同じく足音で恋人を感じ取っている一首。視線は、恋人のほうへは向かわず、「遠い水面のひかり」を眺めているのは、その恋人が近づいてきてくれるまでの時間を楽しんでいるのだろうか。
  • 虎杖を手折ればポッと音のする学校帰りの近道のあじ
                       長野県 泰阜村 木下 茂代

    ▲評 小島 ゆかり
    折ってかじると、ちょっとすっぱいような虎杖の茎。こんななんでもない場面こそ、なつかしいかけがえのない思い出なのだ。「学校帰りの近道のあじ」が、とてもいい。
  • 長良川鵜飼船洗う刷毛の音準備整うしぶきの光る
                       岐阜県 岐阜市 川出 香世子
    ▲評 小島 ゆかり
    鵜飼の場面でなく、その準備の場面に注目したところが新鮮である。「鵜飼船洗う刷毛の音」が聞きたくなる。さあこれから、詩情ゆたかな鵜飼の夜が始まるのだ。
  • 泣くだけじゃ解決しないと励ましてじゃあなんとしようつくつく法師
                       静岡県 静岡市 野田 和江
    ▲評 永田 和宏
    まことにその通り、泣くだけじゃ解決しないのであるが、それならどうすればいいのかが難しい。そこをそのまま「じゃあなんとしようつくつく法師」と軽く流したのが心憎い。
  • 春の目に夏の素肌に秋は耳にそらみつ大和の雨の音(ね)やさし
                       愛知県 名古屋市 添島 貴美代
    ▲評 小島 ゆかり
    春の視覚、夏の肌感覚、そして秋は聴覚に、日本の雨音はやさしいという。四季の体感のゆたかな潤いと、「そらみつ大和」がよく似合う。助詞の働きが細やかである。
  • 人を待つ人次々にいなくなり普通列車の発車する音
                       京都府 京都市 藤森 相貴
    ▲評 佐佐木 幸綱
    上句「人を待つ人次々にいなくなり」は、列車のホームで待ち合わせをする人たちのことでしょう。不特定の大勢を表現する工夫としてなかなか、です。感心しました。
  • 眠りゆく犬の心音ポコポコポコ反抗期など来ないポコポコ
                       大阪府 枚方市 坊 真由美
    ▲評 永田 和宏
    「ぽこぽこぽこ」のオノマトペが秀逸。それが結句でさらにリフレインされているところがさらに良い。「反抗期など来ない」にはどこかに作者が自分を省みている雰囲気も。
  • 包丁を立てればぴしと音響きこれから皆ですいか食べます
                       和歌山県 和歌山市 中尾 加代
    ▲評 小島 ゆかり
    丸ごとのすいかを切って家族や仲間と食べるのは、昔ながらの日本の夏のお楽しみイベント。下句の口調にそんな気分がよく表われている。「ぴし」という瑞々しいひびき!
  • 足わるき妻の階段下りてくる上りとちがう足音たてて
                       宮城県 日向市 黒木 直行
    ▲評 佐佐木 幸綱
    ふだんから聞きなれている妻の足音です。とくに下句「上りとちがう足音」は、ふだんから妻の足音を聞き慣れている夫ならでは表現として、注目しました。

奨励賞

  • 古本の傍線何度も読み返し思いを馳せる誰かの吐息
                       北海道 旭川市 大友 勝弘
  • それぞれに逢いたい人もつ客を乗せ蛍舟のごと夜行バス行く
                       山形県 酒田市 村上 秀夫
  • 息合はせ川沿ひの道をペダル漕ぐタンデムは君の背中が近い
                       福島県 いわき市 大谷 湖水
  • 尾瀬四度(たび)共に歩きし姉の足草鞋(わらぢ)をはかす今日の葬りに
                       茨城県 取手市 関澤 喜久子
  • ここからは母から教師に変わります赤のルージュで境界を引く
                       埼玉県 鴻巣市 秋山 楓
  • 天気予報を皆は見ていないのか駅で吾だけビニール傘持つ
                       埼玉県 熊谷市 岩本 実佳
  • 家族葬増え人の死が粛粛とドラマのように一話完結
                       埼玉県 深谷市 康永 京子
  • 春の野はうすむらさきにたなびきてにほひほのかに花韮の群
                       千葉県 市川市 秋山 典子
  • 罠のごと開かれてゐるガラス窓揚羽のわたし入りかけて去る
                       東京都 大田区 阿久津 恵美
  • ふるさとは「ほなね」「ほなな」とさよならをしてゐるやうなしてないやうな
                       東京都 国立市 武井 恵子
  • 好きな子の後ろに落としたハンカチが風に吹かれて鬼のさびしき
                       東京都 葛飾区 福島 隆史
  • すっと立ち席を離れる若者よ有り難いけど少し寂しい
                       神奈川県 横浜市 髙山 克子
  • 戦死したつねおおじさん名前継ぎつね子となりて一緒に生きる
                       長野県 松本市 金井 つね子
  • 若い頃の曲を歌えば音程の外れたままで終るカラオケ
                       長野県 泰阜村 木下 茂代
  • みどり湖にだれがはなした錦鯉色あざやかな姿いきかう
                       長野県 塩尻市 草野 誠
  • 雛を飾り良き縁願ふはナンセンス、コスパも悪いと孫らは言ふも
                       長野県 塩尻市 藤松 淑子
  • 時差がある柱時計と鳩時計家に来てから早半世紀
                       長野県 松本市 堀内 弓月
  • 売られゆく子牛何度も見送りし実家の庭に採るふきのたう
                       長野県 坂城町 水木 千草
  • 水細き谷の流れに押されつつ歩み危うく沢蟹遊ぶ
                       岐阜県 中津川市 原 福枝
  • ゴミ袋、ほこり、リモコン、自分の手 吾子はおもちゃを見つける天才
                       愛知県 東海市 中山 あゆみ
  • 湯冷めせぬ五右衛門風呂の温もりを今も忘れぬ団塊世代
                       広島県 福山市 浜田 光夫
  • 切り花にささやくように水を足すここにいていい理由が欲しくて
                       広島県 広島市 箭田 儀一
  • 独り居の気儘な暮し楽しみて老人と言う肩書きもある
                       徳島県 徳島市 宮城 幸子
  • 破られた約束がある献花台今年も雨が問うように降る
                       長崎県 五島市 佐々木 泰三
  • 信貴山の雨の宿坊発つ頃の霧の大和は雲より晴るる
                       大分県 臼杵市 佐世 弘重
  • パソコンの仕事を終えて指たちはピアノの汀に喜々と飛び込む
                       北海道 伊達市 中村 英俊
  • 初夏(はつなつ)に孫の心音ライン来る娘の胎内の写真と共に
                       茨城県 潮来市 堀内 道子
  • うたたねの夫の付けたるヘッドホンもれ聞こえ来るマタイ受難曲
                       栃木県 那須塩原市 田村 暁美
  • 接客に疲れたわたしを解く海寝そべればただ波音のあり
                       群馬県 榛東村 岸 和夫
  • 歩くたび離れてしまうイヤホンのようなあなたを押し込み歩く
                       東京都 品川区 石井 しい
  • 鼓動だけやけに大きく響いてた誰にも言えぬ「好き」がある夜
                       東京都 品川区 白河 隼
  • お隣の金木犀が音漏れのように香ってきて秋ですね
                       東京都 練馬区 仲原 佳
  • 友の訃をメールに受けしわが妻の食器を洗ふ音の聞こへる
                       東京都 世田谷区 野上 卓
  • 田んぼから蛙の声が溢れくる音にも四季がある故郷は
                       東京都 江戸川区 服部 さおり
  • 漢江の裂氷の音とどろくを詠みにし父よ百年経たり
                       東京都 品川区 星 陽子
  • 靴音を聞けば橋下に集いくる鯉の家族に会う冬の朝
                       東京都 立川市 山岸 榮子
  • 病室へ向かう足音聞き分けて「娘が来た」と父は顔上ぐ
                       神奈川県 鎌倉市 小笹 岐美子
  • 鍋底にあさりの砂の残りゐて波音聞こゆけふの味噌汁
                       神奈川県 川崎市 吉本 美加
  • オレオレも土日祝日休むらし電話が鳴らぬこの四日間
                       富山県 入善町 濱田 榮子
  • 様々な昭和の音が消え去りて音信もまた死語になりなむ
                       長野県 中野市 太田 舛次
  • ああ今朝も子供部屋から鳴り響く目覚ましの音(ね)で大人が起きる
                       長野県 塩尻市 上村 英文
  • くうううと猫の寝息がして気づくここにほかには音のないこと
                       長野県 松本市 川村 聡子
  • 義母(はは)のもんぺ生母(はは)のブラウス着廻して春の音する野良に出てゆく
                       長野県 塩尻市 北村 緑
  • 校庭の周囲に集ふボランティア草刈機の音響く土曜日
                       長野県 松本市 清原 由紀子
  • 雪を踏む音を頭上で聞きながら春の訪れ待つフキノトウ
                       長野県 塩尻市 清水 佳美
  • 君の耳三半規管は選り分ける我の言葉の硬さ柔(やわ)さを
                       長野県 茅野市 三好 碧
  • 七十年音を拒みし君の耳あすはオペなり朝顔ひらく
                       滋賀県 大津市 嶋寺 洋子
  • 補聴器を充電器に入れ春の夜しおりはずして「ゆふすげ」開く
                       京都府 舞鶴市 鯵本 ミツ子
  • くり返しテレビに映る南極の氷山崩るる音なき画面
                       大阪府 枚方市 武田 俊郎
  • 月ひとつ空渡る夜をひとり身の犬がころがす空き缶の音
                       香川県 多度津町 藪内 眞由美

 

※短歌に関しましては、原稿を忠実に掲載することを基本といたしました。
ただし、ホームページ上で表示できない文字(旧字体など)につきましては、表記を変更しております。ご了承ください。