» 第35回 全国短歌フォーラムin塩尻 入賞作品

第35回 全国短歌フォーラムin塩尻 入賞作品

第35回全国短歌フォーラムin塩尻(一般の部)入賞作品を発表します!!
全国から2,527首のご投稿をいただきました。誠にありがとうございました。

最優秀作品(佐佐木幸綱 選)

  • リモートの「被服学基礎」三限目提出課題は手作りマスク
                        長野県長野市 松田 わこ
    ▲評 「リモート授業」そして「手作りマスク」。二年目に入ってすっかり日常化してしまったコロナ禍を、的確に作品化してみせたアイディアに感心しました。

最優秀作品(永田和宏 選)

  • 君の声聞こえなかった風のせい聞き返せない君の目のせい
                        長野県松本市 川端 いず美
    ▲評 君の声が聞こえなかったのは風のせいだが、聞き返せなかったのは「君の目のせい」だという。見つめ合う若い恋人の震えるようなナイーブな感性が、つぶやきだけで鮮やかに切り取られた。

最優秀作品(小島ゆかり 選)

  • 「風(ふう)」なんて名付けしばかりに大空へ飛び立ちゆきしインコの風ちゃん
                        北海道稚内市 及川 文子
    ▲評 「インコの風ちゃん」はその名のとおり風になったのだ。初句の口語と、「大空へ」からの上昇のリズムが歌を生かした。寂しさの一方で、どこか晴れ晴れとした一首。

優秀作品(佐佐木幸綱 選)

  • 木に登り梅取りをれば子を負ひし猿が口あけ吾を威嚇す
                        長野県飯田市 竹内 和子
    ▲評 梅の木に登っていたら、木登りの専門家の猿に見つかって威嚇されたというのです。しかも向こうは子連れ。さり気ないユーモアの味わいが嬉しい一首です。
  • 羽のない僕らに風を恋人が土手から飛んでやると言い張る
                        東京都板橋区 松下 誠一
    ▲評 羽がないのに、土手の上から飛ぶと言って聞かない恋人のために、風を願っている一首。ファンタジックな淡彩画のような味わいが魅力的です。
  • 熱風と金属音と歓声の車いすバスケ試合会場
                        新潟県燕市 七里 松枝
    ▲評 パラリンピックの競技種目にもある車いすバスケットボール。短歌にうたわれる機会の少ない題材に、あえて挑戦した意欲をかいたいと思います。

優秀作品(永田和宏 選)

  • 眠れない夜だってある私にもきっと鳥にもそう魚にも
                        富山県富山市 松田 梨子
    ▲評 「眠れない夜だってある」は誰にでも覚えのある感覚であるが、それが私だけでなく、鳥にも魚にもと重ねられていくところがおもしろい。「きっと」「そう」という語の使い方が絶妙。
  • 裏返しまたばたばたと渋団扇時に自分を煽ぐうなぎ屋
                        青森県野辺地町 山田 摂
    ▲評 見たことのある風景だろう。うなぎを裏返しては、忙しく団扇で煽いでいるが、時おり「自分を煽ぐ」というところに注目したのがいい。こういうちょっとした瞬間が歌の素材になる。
  • つばくらめ緑をすべり水すべり夏をすべるぞ風だおまえは
                        長野県塩尻市 中村 悠介
    ▲評 二句、三句までは燕の飛翔をうまく捉えたが、四句目の飛躍がすばらしい。夏の底辺を滑るように飛ぶ燕。おまえはもう風そのものなのだと言い切る。この断言の若々しさ。

優秀作品(小島ゆかり 選)

  • 出会いでも別れでもない春が来るきみは今年も帰って来ない
                        長野県上田市 日向 彼方
    ▲評 長引くコロナウイルス感染拡大によって、わたしたちは「出会いの春」も「別れの春」も失ってしまった。「でも」「ない」の繰り返しが、切なさをよく伝えている。
  • 大海を泳ぐクジラの胃の底にいつか私が嚙んだストロー
                        長野県松本市 青山 志織
    ▲評 「私が嚙んだストロー」により、地球規模の環境汚染の問題が、がぜんリアルに意識される。そして、「大海を泳ぐクジラ」にも「私」にも生きることの悲しみがにじむ。
  • つばくらめ緑をすべり水すべり夏をすべるぞ風だおまえは
                        長野県塩尻市 中村 悠介
    ▲評 「すべり」「すべり」「すべる」の連続により、まるでつばめが飛ぶようなリズムになった。「風だおまえは」という力強いフレーズが、題を生かし切ったすばらしい作品。

入選作品(佐佐木幸綱 選)

  • ラジオより「オブラディ・オブラダ」聴きながら人事異動の職場へ向かう
                        埼玉県熊谷市 岩本 実佳
    ▲評 ビートルズの「オブラディ・オブラダ」の歌詞の意味は、「人生はつづいてゆくよ」ぐらいの意味と言われます。何気なく聞く曲として適切です。
  • 開放のドアより入り飛び巡るツバメにしばし賑わう事務所
                        京都府京都市 後藤 正樹
    ▲評 迷い込んだツバメに騒がしくなる事務所。日常生活のなかの小さな事件を、小さいまま作品化して成功。ここでは「しばし」がきいていますね。
  • ちゃんぽんに烏賊も鳴門も少ないと文句言いつつふるさとを食む
                        千葉県白井市 高橋 富久美
    ▲評 長崎出身の作者なのでしょう。わざといろいろ文句をつけながら、大好きで、懐かしいちゃんぽんを食べている様子が目に浮かびます。
  • 梅雨晴れに感謝しながら干すふとん空に連動している心
                        大阪府堺市 一條 智美
    ▲評 しばらく続いた雨の日から解放されて、心も快晴になったのです。「空に連動している心」というフレーズ、シンプルで強く、いいですね。
  • 百歳は越えられるよと励まさる九十七才明日の米研ぐ
                        新潟県糸魚川市 大竹 マサヱ
    ▲評 ますます元気な九十七歳。百歳は充分越えられるでしょう。結句「明日の米研ぐ」が上手いですね。食事も自分で作っておられるのでしょうか。
  • 百畳の大凧揚げた帰り道車で抜ける八風(はっぷう)街道
                        京都府京都市 後藤 正樹
    ▲評 「凧」とつきものの「風」。「風」の縁で「八風街道」を出てきます。言葉遊びの楽しさを味あわせてくれる一首です。八風街道は、近江から鈴鹿山地の八風峠を越えて伊勢に至る道。
  • ありなしの風の入りきて陽だまりに居眠る母の本をめくれり
                        宮城県松島町 遠山 勝雄
    ▲評 年老いた母ならではの、ゆっくり進むしずかな時間を表現した一首です。「母」は本を読んでいるうちに寝込んでしまったのですね。
  • 友ゆらし私もゆらし初夏の風対面授業の教室抜ける
                        長野県長野市 松田 わこ
    ▲評 わざわざ「対面授業の教室」と言っているのは、長くリモート授業がつづいていたからでしょう。久々に同級生と一緒の教室。友人と同じ風に吹かれている楽しさ。
  • 新品の白のブラウス風になり今日は私が職場を去る日
                        長野県池田町 小瀬 やよい
    ▲評 定年退職でしょうか。つとめてきた職場、最後の日です。と同時に新しい生活最初の日でもあります。特別な日なので新品の白いシャツを着てきたのですね。
  • 台風とともに母親やってきて部屋をめちゃくちゃ綺麗にしてゆく
                        東京都調布市 森永 理恵
    ▲評 一人暮らしのアパートなのでしょう。台風のように来て、台風のように帰って行った母。下句、「部屋をめちゃくちゃ綺麗にしてゆく」が可笑しいですね。

入選作品(永田和宏 選)

  • 穂高より富士山を見たあの距離の三百倍が地球一周
                        愛媛県新居浜市 大賀 康男
    ▲評 発想の大胆さに注目した。私も何度か穂高には登ったが、そこから見た富士山との距離に思いをいたしたことはなかった。まして、その三百倍が地球一周だとは。正確かどうかは知らないが。
  • 扇風機強で回って考えろ今日の宿題サボるイイワケ
                        長野県塩尻市 藤森 深生
    ▲評 意味不明のところもあるが、扇風機に無理強いしているところが微笑ましい。とにかく何でもいいから「宿題サボるイイワケ」を捻りだしたいと言う。ちょっと八つ当たり気味だが気持はわかる。
  • 痛いとも苦しいんだとも言わなんだただ一度だけ殺してと言った
                        長野県長野市 麦島 照子
    ▲評 苦しんでいる病人を看護するのは辛い作業である。まして病人がじっと堪えているのを見るのは辛い。たった一度だけ「殺して」と言ったことが、その苦痛を何より雄弁に物語っている。
  • 差し出して小さき穴を開けられる人のぬくもりが駅だつた頃
                        岐阜県岐阜市 臼井 均
    ▲評 改札口で切符をさし出して、それにパンチを入れてもらって乗車するのがかつての景。切符をやり取りして穴を開けるだけのことだが、その「人のぬくもり」こそが駅だったと懐かしむ。
  • 君は言ふ「どちらが元気か十年後」その勝負、望むところよ
                        長野県岡谷市 北原 夕子
    ▲評 十年後、どちらが元気かと連れ合いが言う。「その勝負のぞむところ」と受けて立つ。こういう会話が交わせること自体、まだ若いということだが、羨ましい夫婦のジャブである。
  • 丹後には裏西という風があり晩秋の夜海鳴りを聞く
                        京都府城陽市 下岡 昌美
    ▲評 丹後地方に秋から晩秋にかけて吹く風が裏西。不安定な天気で、「弁当忘れても傘わすれるな」と言われるように、朝晴れていても突然雨になったりする。しかし作者には懐かしく誇りでもある。
  • 今風は歩いてるから今僕もゆっくり歩いて家へ帰ろう
                        長野県塩尻市 藤森 寛生
    ▲評 風は「吹く」ものだという固定観念から自由に、風が今歩いているという把握に驚かされる。風も歩いているのだから、僕もゆっくり歩いて帰ろうと。そう、急ぐことはなにもない。
  • テーブルに葉影が揺れて風ゆれてわたしを覚えてくれてゐた人
                        愛知県豊橋市 行方 祐美
    ▲評 テーブルを挟んで向かい合った情景だろうか。もう忘れているだろうと思っていたのに覚えてくれていた!その喜びにつかのま揺れた心が、テーブルの上の葉影がうまく重なる。
  • 羽のない僕らに風を 恋人が土手から飛んでやると言い張る
                        東京都板橋区 松下 誠一
    ▲評 ぶっそうな歌ではある。「飛んでやる」と息巻く恋人も魅力的だが、その恋人と一緒に飛んでみようと思っているのだろうか。「僕らに風を」はまた「僕らに羽を」含んだ願いだろう。
  • 水曜日χに風を代入する午後の授業は二時で終わりだ
                        静岡県静岡市 栗山 太一
    ▲評 数学の先生だろうか。方程式のχに「風を代入する」という発想が素晴らしい。風が代入されたら、もう授業は終わるしかない。数学嫌いも好きになりそうな、自由な先生である。

入選作品(小島ゆかり 選)

  • 朧夜はいくたびも鍵確かむる一階に夫われは二階に
                        福岡県北九州市 山脇 香代子
    ▲評 朧夜は、ぼんやりうっかりなにかを忘れてしまいそう。「鍵確かむる」という生活感と、ほのかなユーモア。「一階に夫」だからよけいに不安なのだろう。
  • 空色のパーカーの人横切って似た色のペン探す百均
                        長野県松川村 谷川 利音
    ▲評 日常の折々にふと、こんな不思議な心理がおとずれる。見ず知らずの人の「空色のパーカー」と、その色のペンを探す作者。大人の童話のようなおもしろさ。
  • 扇風機強で回って考えろ今日の宿題サボるイイワケ
                        長野県塩尻市 藤森 深生
    ▲評 「扇風機強で回って」が、「考えろ」の命令形と、「サボるイイワケ」のカタカナ表記に、説得力を生み出した。「強」と「今日」!さて、どんなイイワケを思いついたか。
  • まだ降りずまだ立っているためらわず「次降りるから」と譲りくれしが
                        京都府京都市 高橋 よしこ
    ▲評 席を譲ってくれた人と、譲られた作者との無言の心の交流。「次降りるから」にさえ思いやりがこめられていたのだ。細かく刻むリズムが、高まる気持ちを表現している。
  • 冬の日に体寄せ合い温まる雀と同じ我がクラスなり
                        長野県塩尻市 中村 悠介
    ▲評 寒い冬の日には、雀がだんごになるように、クラスメートも体をくっつけ合う。仲良しのクラスの様子がよくわかる。こんなことが、なつかしい大切な思い出になるのだ。
  • みつばちの羽音は風に混り来て分蜂の渦われを囲みぬ
                        愛知県常滑市 芳山 きり子
    ▲評 みつばちの分蜂(巣別れの引っ越し)という特殊な場面を描いて、魅力ある作品。「羽音」「風」「分蜂の渦」など、一語一語があざやかに用いられている。
  • 震災を知らぬ子ばかりの校庭に風は弔旗を揺らしつづける
                        山形県酒田市 村上 秀夫
    ▲評 東日本大震災から十年が過ぎ、「震災を知らぬ子ばかり」になった学校。それはよきこととも言えるが、しかし被災の事実は消えない。下句に、万感の思いがこもる。
  • 友ゆらし私もゆらし初夏の風対面授業の教室抜ける
                        長野県長野市 松田 わこ
    ▲評 コロナ禍によって、「対面授業」という言葉が生まれ、その言葉を新鮮に生かした作品が生まれた。さわやかな季節の対面授業のよろこびが、リズムでも表現されている。
  • 時おりの二月風巡り(ニンガチカジマーイ)に背押されビオラ植えれば土の冷たし
                        沖縄県那覇市 我那覇 スエ子
    ▲評 ニンガチカジマーイとは、旧暦2月(新暦3~4月ごろ)の、沖縄の春の嵐だという。もう春だと思っても、まだ土は冷たいのだ。沖縄の風土と言葉が生きている。
  • 十一時。仕事終わりの無防備なわたしはどんな風にもなじむ
                        埼玉県和光市 岩﨑 雄大
    ▲評 仕事終わりの安堵感と解放感が、いかにも自然に、それでいて個性ゆたかに表現された。「十一時。」にも工夫がある。そして題を生かしたフレーズがすばらしい。

奨励賞(佐佐木幸綱 選)

  • 週一度介護士さんにおだてられ炭坑節でリハビリをする
                        埼玉県川越市 神田 悦子
  • からうじて雨。否、霙。やはり雪。動物園の静かなる春
                        北海道札幌市 櫻谷 るみ
  • 何日もかけて空き家を壊す音満開の桜がきいている
                        長野県辰野町 遠藤 公子
  • 赤色はストロンチウムと講釈を聞きながら見る花火は煙い
                        神奈川県平塚市 小平 貞
  • 病むひざをさすってのぼった牛伏寺の牛をさすってひたすら祈る
                        長野県塩尻市 中山 由美子
  • 内科医の娘は一人仮住い再三続く緊急事態に
                        埼玉県秩父市 風間 稔
  • ここからは鳥獣保護区熊の出る道を真つ直ぐ家庭訪問
                        北海道札幌市 藤林 正則
  • 冬の日に体寄せ合い温まる雀と同じ我がクラスなり
                        長野県塩尻市 中村 悠介
  • 水浴びに群れる雀をライラックの木陰でしばし眺めてをりぬ
                        北海道江別市 長谷川 敬子
  • 休日の村上春樹捨てた日に気持ちも晴れぬ春の断捨離
                        長野県塩尻市 石井 健郎
  • 冬場には風上となる牛小屋が在るに構わず建売の建つ
                        埼玉県所沢市 若山 巌
  • 春風に乗って外まで聞こえ来るぽわんぽわんと球を打つ音
                        愛媛県松山市 園部 淳
  • 春風とお日様に魔法をかけられて庭の木蓮パカパカ笑ふ
                        兵庫県佐用町 中村 千州代
  • 君と帰る初めての春セーラーの襟を舞い上がらせる花風
                        東京都西東京市 小島 涼我
  • 開け放つ御堂にかすか風這入り千手観音ひんやり並ぶ
                        大阪府守口市 岡田 福
  • 小川あり童話みたいな家がある風車がまわる緑の丘に
                        富山県富山市 北川 邦彦
  • 熊除けの鈴の音軽く犬と行く風が秋めく山ぎはの道
                        長野県塩尻市 矢彦沢 貞美
  • ライン開けばああいい風だ娘(こ)の暮らすルクセンブルクバルコニーの春
                        長野県飯田市 木内 かず子
  • つばくらめ緑をすべり水すべり夏をすべるぞ風だおまえは
                        長野県塩尻市 中村 悠介
  • わが猫は首をかしげて風を見る今日はポプラの綿毛飛ぶ空
                        北海道札幌市 加藤 幾予乃

奨励賞(永田和宏 選)

  • 仮装した妖怪たちも本物もうちにはやって来ないハロウィン
                        三重県名張市 相川 高宏
  • 障りなき距離を保ちてリビングと二階のテレビ同じ番組
                        大阪府吹田市 野々村 紘一
  • からうじて雨。否、霙。やはり雪。動物園の静かなる春
                        北海道札幌市 櫻谷 るみ
  • 当り前のような顔した犬乘せてシルバーカーは朝の日課へ
                        愛知県一宮市 伊藤 幸男
  • モノクロの駅舎の写真の改札に二十歳の君の背中が消える
                        大阪府池田市 中井 久子
  • ある時は菩薩にある日は夜叉となり母の麻痺せる脚をなでゐつ
                        茨城県ひたちなか市 小田倉 量平
  • 丘一つ日々削られる隣り町無かったことにするのも仕事
                        神奈川県横浜市 杉山 太郎
  • あなた待つ時間はわたしだけのもの携帯なんていらないよ、海
                        香川県琴平市 氏家 長子
  • まあるい日さんかくの日にしかくい日いろんなかおがあってもいいの
                        長野県塩尻市 田中 理恵子
  • 黄昏に君のこぼれた泣き顔を綺麗と思う僕を許して
                        長野県松本市 川端 いず美
  • 風をはく足でがあっと踏み切って八ケ岳から富士山へ跳ぶ
                        東京都町田市 両角 美貴子
  • 天気図はラジオを聴いて書けるけど妻の風向き今も読めない
                        和歌山県海南市 樋口 勉
  • おとうとと将棋するときおとうとへ「うちは風」やる父でありしよ
                        福岡県大牟田市 西山 博幸
  • 東風うけて聖火きたるも次はどこ継走せずにリレーと言う不思議
                        岩手県洋野町 酒井 久男
  • 風車まわれば色の溶けにけり水子地蔵のあどけなき顔
                        愛知県豊橋市 久野 敦子
  • はろばろとゴビから風が運び来し砂は湖国の霾(つちふ)りとなる
                        滋賀県大津市 船岡 房公
  • 風に身を任せて落ちた椿、もうきみが好きだと認めてしまう
                        長野県上田市 日向 彼方
  • あふちの花降る径をゆく脈拍をペースメーカーに担保されつつ
                        鳥取県境港市 佐々木 千代子
  • その羽の尖りたるさま見せぬやう回しておかむ吾が風車
                        滋賀県湖南市 俵山 友里
  • あの店のミラノ風ドリアが好きだけど本場のミラノの味はしらない
                        長野県松本市 茅野 勇史

奨励賞(小島ゆかり 選)

  • 「今日はな」と言いかけてはた酒を置くかみさんすでに逝きたるものを
                        静岡県浜松市 大庭 拓郎
  • 若きらと集う歌会は繰り返し辞書引く我の国語の時間
                        京都府京都市 北条 暦
  • 踏切がカンカンカンと鳴っている忘れたいこと近づいてくる
                        富山県滑川市 土肥 夏綱
  • からうじて雨。否、霙。やはり雪。動物園の静かなる春
                        北海道札幌市 櫻谷 るみ
  • あの庭のチューリップの色が分かるころ黄なら留まり赤なら進む
                        富山県富山市 藤田 結子
  • 九十三歳過ぎても好きな庭手入れハシゴ外れてドスンと落ちる
                        長野県塩尻市 清水 守人
  • 停車時に同じ角度で吊り革を引く透明の通勤者たち
                        大阪府池田市 土田 真弓
  • ここからは鳥獣保護区熊の出る道を真つ直ぐ家庭訪問
                        北海道札幌市 藤林 正則
  • 控え室訪ねるように敬虔な気持ちでめくる本のカバーを
                        長野県松本市 矢杉 麻衣
  • つかのまのどこにも属さない朝にひかりのように鯉が流れる
                        東京都調布市 森永 理恵
  • 冬場には風上となる牛小屋が在るに構わず建売の建つ
                        埼玉県所沢市 若山 巌
  • 猫と風きみとの未来かんがえる猫は猫のまま毛づくろいする
                        宮城県仙台市 阿部 希
  • 「ただいまあ」一年生はすっ飛んで扇風機に行き首を垂れてる
                        愛知県名古屋市 稲熊 明美
  • 庭隅の犬小屋のぞく野良猫よポールのにほひは風になつたよ
                        大阪府豊能町 熊ノ郷 紀子
  • 今風は歩いてるから今僕もゆっくり歩いて家へ帰ろう
                        長野県塩尻市 藤森 寛生
  • 「風邪ひくで来ちゃいけない」と言っていた祖父の葬儀で知るその真冬
                        大阪府堺市 一條 智美
  • 今日もまた風のうずまく左耳空はあんなに澄みきっている
                        茨城県つくば市 高野 みね
  • 田植前の稲苗運び終えし時田んぼにふいーっと「お助け風」吹く
                        岐阜県飛騨市 横山 美保子
  • ひとつづつぎゅっと絞られ栗きんとん恵那吹く山の風の味する
                        愛知県名古屋市 中崎 淳子
  • 台風とともに母親やってきて部屋をめちゃくちゃ綺麗にしてゆく
                        東京都調布市 森永 理恵

※短歌に関しましては、原稿を忠実に掲載することを基本といたしました。
ただし、ホームページ上で表示できない文字(旧字体など)につきましては、表記を変更しております。ご了承ください。