» 第36回 全国短歌フォーラムin塩尻 入選作品

第36回 全国短歌フォーラムin塩尻 入選作品

第36回全国短歌フォーラムin塩尻(一般の部)入選作品を発表します!!
全国から1,889首のご投稿をいただきました。誠にありがとうございました。

最優秀作品(佐佐木幸綱 選)

  • 洗濯物映える画面の娘(こ)と電話「今夜のメニューは三日目のスープ」
                        長野県塩尻市 小林 芽久美
    ▲評 テレビ電話での、相手の顔や部屋を見ながらの通話に取材。娘さんの部屋は、洗濯物が目立つ部屋なんですね。生活実感のある「三日目のスープ」が、うまい。

最優秀作品(永田和宏 選)

  • 電話帳の一番上にあなたいて消せずにわたしは佐々木になるね
                        岡山県倉敷市 堀 将大
    ▲評 かつての恋人の名前を消去できないままに、結婚して姓が変わる私。そんな背景を一切の説明なしに詠ったのは見事。「なるね」の、相手に伝わらないひとり言が切ない。

最優秀作品(小島ゆかり 選)

  • 亡き父のクラリネットに秘密あり わたしだけ知るチンドン屋の夢
                        大阪府池田市 黒木 淳子
    ▲評 亡き父の夢はチンドン屋になること。父の遺したクラリネットには、その夢が潜んでいるのだ。今は自分だけが知る大切な秘密。哀しく楽しく父へのなつかしさを伝える秀歌。

優秀作品(佐佐木幸綱 選)

  • 子の寝るにさるかに合戦聞かせれば吾も眠くなる種を蒔くころ
                        新潟県糸魚川市 清水 恵美
    ▲評 「さるかに合戦」でカニが柿の種をまくのは話のはじめの方だったと思います。つまり、すぐに眠くなっちゃうんですね。内容が具体的で歌の骨格がしっかりした作。
  • 郡上の町天然鮎をじっくりと焼きて待たせる我も待つ人
                        愛知県名古屋市 中崎 淳子
    ▲評 長良川の上流に位置する岐阜県の郡上は、天然鮎で知られています。「‥‥‥われも待つ人」と待たされつつ、ずいぶん嬉しそうです。鮎好きの作者なのでしょう。
  • 吉報の匂いが残る留守電にそわそわしてる生き物と化す
                        長野県松川村 谷川 利音
    ▲評 留守電にあったのは、よっぽどいい知らせだったのです。居ても立ってもいられない気分。「そわそわしてる生き物と化す」には、思わず笑ってしまいます。

優秀作品(永田和宏 選)

  • 優しさは言葉じゃなくてもわかるもの私に合わせた慣れない歩幅
                        大阪府箕面市 秋吉 和紀
    ▲評 さり気なく歩幅を合わせてくれる君。言葉で大げさな愛情告白を受けるより、こんなさり気ない思いやりにこそ、優しさと愛情が感じられるもの。漫画「タッチ」にやはりそんなシーンがあった。
  • そっけないあなたの返事どうしたの隣に誰か居るのね、きっと
                        北海道札幌市 後藤 明美
    ▲評 どうにもぎこちない応答。素っ気ない返事。女性の感は鋭く、きっとあなたの傍に誰かがいるに違いないと嗅ぎ当てる。誰かは恋人であるとは限らないが、怖い歌でもある。
  • 母の死にやっぱり泣いた電話口「わかりました」は準備していた
                        長崎県諫早市 馬渡 壽人
    ▲評 かねてより心の準備をしていた母の死の知らせ。「わかりました」は用意していた言葉だったが、それでも「やっぱり泣い」てしまったのが哀しい。

優秀作品(小島ゆかり 選)

  • 棺から外を覗けば生前は止(と)められていた銘酒が並ぶ
                        和歌山県海南市 樋口 勉
    ▲評 死んで棺に入っている自分を想像するという、とんでもない場面。生前は止められていた大好物の「銘酒」がずらりと供えられている。しめしめ、と思ったかどうか。
  • 風呂を出(で)し直後保護者から電話あり首から上のみ教師となりぬ
                        北海道伊達市 中村 英俊
    ▲評 まだバスタオルを巻いたぐらいの格好だろう。「首から上のみ教師」となって大真面目に電話応対をする自分がなんとも滑稽にちがいない。しかし、こういうことはよくある。
  • 私二十歳話してみたい恋のこと二十歳の頃の母と電話で
                        富山県富山市 松田 わこ
    ▲評 「二十歳の頃の母」と恋の話をするのは、電話。二十歳の母にはメールもLINEもつながらない。そしてやっぱり声と声がいい。ユニークな発想で題を新鮮に生かした。

入選作品(佐佐木幸綱 選)

  • 棺から外を覗けば生前は止(と)められていた銘酒が並ぶ
                        和歌山県海南市 樋口 勉
    ▲評 禁酒させられている酒好きの作者です。死んだ自分が棺の隙間からのぞいている、という大胆な設定です。酒飲みしか分からない切実さとユーモアは一級品。
  • 透明の小さき花瓶のネモフィラの淡きブルーに和むクリニック
                        新潟県新発田市 三浦 ユリコ
    ▲評 小さな青い花を咲かせるネモフィラ。クリニックには、みなそれぞれの不安を抱いてやってきます。「和む」という語が、その場の空気を的確に表現しています。
  • グローブの形のクリームパンを買い楽しくなる日風も夏めく
                        富山県富山市 松田 わこ
    ▲評 久しぶりでクリームパンを買ったのです。パンの袋を手渡されたとたんに、野球に熱中した子供時代が思い出されたのでしょう。結句「風も夏めく」が、いいですね。
  • 山の色みどりときみどりに塗り分けて移り行く春小さき手は描く
                        長野県塩尻市 佐藤 茜
    ▲評 子供が描いている絵が話題です。若葉から青葉へ移りつつある春の山。変化しつつある春の山の現在を、微妙に塗り分けているのでしょう。細部をうまく描いています。
  • 朝の水ふふめばうまし 腹を見せ背を見せきらり初燕くる
                        長野県筑北村 宮下 喜美子
    ▲評 「初燕」という季語を使って、楽しい一首にしあげました。具体的には、上句の「朝の水」と下句の「きらり」がうまく響き合って、詩的世界を構成しています。
  • 死期迫る兄との和解を勧めたる姉の電話に心揺らぐ夜
                        群馬県みどり市 志田 貴志生
    ▲評 兄弟のいざこざを命あるうちになんとか解決しておきたいという切実な三人のドラマです。私は一人っ子なので、外野席にいる感じですが、結句、分かる気がします。
  • 薬大の女子寮からの長電話ただただ聞いてくれし母なりき
                        群馬県伊勢崎市 新井 恵美子
    ▲評 女子寮時代に母上に電話して、たまった思いを聞いてもらっていたんですね。スマホがない時代で、公衆電話か女子寮の電話だったのでしょう。その分、想い出は濃厚です。
  • 転勤のひかるオフィス始業まへ百の受話器を磨くひとゐた
                        埼玉県所沢市 佐久間 敬喜
    ▲評 大きなオフィスに転勤して来たときの驚きです。電話百台を一人で全部みがくように拭く人がいたのです。「驚く」という語はありませんが、驚きが伝わってくる一首です。
  • 研修は電話応対からだったコピーお茶汲み去りゆく昭和
                        長野県松本市 唐澤 信子
    ▲評 研修と称して新入社員が電話対応をやらされた時代がありました。コピーとお茶くみも、新入社員の役目でした。そんなパソコン以前の時代は、もう昔話になりました。
  • 鳶職のニッカポッカを穿く男屋根に跨がり電話してゐる
                        大分県竹田市 井上 登志子
    ▲評 「屋根に跨がり電話してゐる」がいいですね。読者の心に鮮明な映像が浮かびます。近年はユニットハウスなどが多くなり、屋根の上の鳶職を見なくなりました。

入選作品(永田和宏 選)

  • 棺から外を覗けば生前は止(と)められていた銘酒が並ぶ
                        和歌山県海南市 樋口 勉
    ▲評 不思議な歌だ。作者は死者になって棺から外を見ている。「生前は止められていた」旨そうな酒を見ながら、呑みたい、なぜ生きているときに思い切り飲まなかったのかと恨めしく思っているのだろう。
  • マネキンの着ていた服を今日も着るだんだんわたしの服になってく
                        三重県多気町 笹木 和子
    ▲評 新しい服がだんだん自分にフィットしてくるまでの、ちょっとした違和感をうまく捉えた。「マネキンの着ていた服」と具体的に言ったことで、ちょっと気取った服が自分に馴染むまでの温かみが感じられる。
  • 親の背よりスクールバスの運転手の背をみてぼくら大きくなった
                        兵庫県神戸市 米谷 茂
    ▲評 毎朝通っていたスクールバス。運転手の背中は何よりも多く見てきたものなのかも知れない。子は親の背を見て育つというが、「親の背よりも」と言ったところに批評眼が感じられる。
  • もう一度君に出会へばもう一度好きになります、伊良湖崎まで
                        東京都葛飾区 福島 隆史
    ▲評 第四句めまでをダイレクトに言い切ったところに、却ってリアリティが生まれた。結句の「伊良湖崎まで」が即くようでちょっとズレた感じもあり、うまく収まっている。
  • 母の日に私に届くプレゼントその始まりは「かたたたきけん」
                        長野県塩尻市 土田 安子
    ▲評 いまでも母の日にはプレゼントが届くのだろう。でも母には、初めてもらった「かたたたきけん」の感激が何より大切な記憶として残っている。父の日にはくれないよね。
  • 初恋のあなたに聞いた番号のごろ合わせまだ覚えています
                        長野県塩尻市 中山 由美子
    ▲評 電話番号だろうか。初恋の記憶はだんだん薄れてもいくのだろうが、何度もかけた番号の語呂合わせだけは、もう必要のなくなった今も鮮やかに覚えている。私も電話番号はすべて語呂合わせで記憶。
  • ダイヤルを回して戻る数秒は花びら占いのようだった頃
                        愛知県名古屋市 稲熊 明美
    ▲評 どきどきしながら番号をまわした初恋の頃の記憶だろうか。ダイヤルが戻るわずかな時間さえもがどこか「花びら占い」のように感じられるほど、新鮮だったころ。
  • “もう来ない”“もう待たなくていいんだよ”言い聞かせつつ電話のベル待つ
                        長野県塩尻市 矢崎 修子
    ▲評 失恋の相手か、亡くなった身近な人か。電話は「もう来ない」ことはわかっていて、「もう待たなくていいんだよ」と言い聞かせているのに、それでもなお待ってしまっている切なさ。
  • 大したことないんだけどときりだすときたいがい大ごとむすこの電話
                        愛知県名古屋市 吉田 周子
    ▲評 息子の口癖をよくわかっている母親である。内容はその通りで説明の要もないが、さあ大変と思いつつも、息子からのそんな電話を待っている母の心もよく表われている。
  • 電話口に指示受けながら救急車到着までを蘇生続けり
                        福岡県糸島市 瀬戸口 真澄
    ▲評 緊迫した場面である。救急車よ早く来てくれと願いながら、とにかく必死で電話からの指示に従って蘇生術を施したのであろう。電話の歌として特殊な場面を詠った、印象に残る一首であった。

入選作品(小島ゆかり 選)

  • 故郷の駅のホームで君に似た他人のような君に逢う夏
                        埼玉県久喜市 坂田 宗大
    ▲評 時が流れて、君は「君に似た他人」のように変わってしまった。それはまた、二人の関係の変化でもある。「故郷の駅のホーム」「夏」が、詩的な感傷をもたらした。
  • 侵略の戦車の轍春泥に深くくいこみ廃墟のキーウ
                        岡山県岡山市 松元 慶子
    ▲評 「春泥に深くくいこみ」という表現に、厳しい痛みが感じられる。春なのにたちまち「廃墟」になってしまったウクライナの都市キーウ。主観を排して歌に強さが生まれた。
  • 見て見ぬふりする者世界を滅ぼすとアインシュタイン 積乱雲湧く
                        青森県弘前市 藤田 久美子
    ▲評 アインシュタインの名言のなかの一つ。世界情勢や日本の社会状況や、まさにいまこの言葉を思い返さなければならない。結句の転換がとてもいい。
  • 眼帯の取れしわが目に澄む空は太古の海だ わたしはイルカ
                        長野県飯田市 佐々木 桂子
    ▲評 手術後だろうか。眼帯がとれて視界が晴れやかに展(ひら)けたときの感動を、時的にのびやかに表現した。まるで新しい命を生き直すようなスケールの大きさ。
  • 避難者と言はずゲストと家に招くポーランドの人ひまはり揺れて
                        福島県いわき市 伊藤 雅水
    ▲評 国境を越えて辿り着いたウクライナの人々への思いやり。ポーランドの人の深いやさしさを知り、日本はどうか自分はどうかと問いかける気持ちが、余韻となって胸に残る。
  • あのねのね爺は二番に好きな人幼き孫より糸電話がくる
                        長野県飯山市 小林 吉重
    ▲評 「あのねのね爺は二番に好きな人」という童謡のようなリズムが、この歌によく合う。さて、一番に好きな人はだれか。糸電話ならではの、楽しく心ゆたかな一首。
  • 駅前の団子屋さんの長い列携帯を見ず焦げ目見ている
                        富山県富山市 松田 梨子
    ▲評 いまかいまかと順番を待つうち、いよいよ団子がおいしそうに見えてくる。「携帯を見ず焦げ目見ている」という表現に、実感とユーモアがある。
  • 父親がいつも電話に出たために続かなかった吾の初恋
                        長野県長野市 依田 泰行
    ▲評 淡々としたまじめな報告調が、おかしみを誘う。家の電話しかなかった時代、電話に出るのは大人に決まっていた。そして父親はたいてい不愛想だから、ハードルが高い。
  • 大したことないんだけどときりだすときたいがい大ごとむすこの電話
                        愛知県名古屋市 吉田 周子
    ▲評 「大したことないんだけど」は、息子なりの配慮や自己弁護の気持ちにちがいないが‥‥‥。親子ならでは、電話ならではの場面に実感がある。日常会話のリズムが生きている。
  • 弁当をふたつ携へ二十四時間勤務の電話交換手たりき
                        長野県喬木村 福澤 亀人
    ▲評 かつて電話交換手だった作者。「弁当をふたつ携へ二十四時間勤務」というじっさいの体験が、歌に力をもたらした。電話にまつわる時代の証言でもある一首。

奨励賞(佐佐木幸綱 選)

  • 故郷の駅のホームで君に似た他人のような君に逢う夏
                        埼玉県久喜市 坂田 宗大
  • 八ツ岳の黒き緑は栂と椴松群るる斜面に今陽が差しぬ
                        東京都杉並区 岡崎 志昴
  • ラグビーの試合終わりかバスに乗り顔の汗拭く学生たちは
                        埼玉県熊谷市 岩本 実佳
  • 七転び八起きに励み来し百年の店を閉ぢたり令和の秋に
                        長野県安曇野市 三原 たまき
  • 穏やかな初夏の海辺は客のなくアカテガニ一匹足早に過ぐ
                        兵庫県香美町 嶋田 冨美代
  • 鳶職は長きパイプをひょいと投げ屋根の相方ひょいと受けとる
                        静岡県磐田市 川島 敬司
  • 自販機のトマト売場に手袋の忘れられしまま初夏になりたり
                        栃木県那須塩原市 高松 三枝子
  • 亡き父のクラリネットに秘密あり わたしだけ知るチンドン屋の夢
                        大阪府池田市 黒木 淳子
  • さあ行こう田植え終って自由人白馬にするか木曽路にするか
                        長野県塩尻市 丸山 洋
  • 結局は同じ淋しい風だった電話帳から削除した恋
                        宮城県仙台市 阿部 希
  • 急減の公衆電話探すとき街は無言の巨大な迷路
                        和歌山県和歌山市 松田 容典
  • 会いたいと思った瞬間鳴ったベル電話に恋の魔術師いた頃
                        石川県野々市市 上農 多慶美
  • もう一度きみの留守電聞いて寝る消去できない「ごめんね」がある
                        北海道札幌市 住吉 和歌子
  • 黒電話初めて聞いたベルの音驚き飛んだ寝ていた子猫
                        長野県塩尻市 三溝 萌
  • 「陣痛が来ました。」自宅のリビングでスマホを握り助産師を待つ
                        東京都府中市 野田 鮎子
  • 電話切る刹那に切なさひたひたと施設の父の大きく笑ふ
                        沖縄県那覇市 前原 真弓
  • 「十歳だから電話じゃ言えない事あるの」泣き虫返上思春期宣言
                        長野県茅野市 鈴木 恵美子
  • 過疎高齢、三十二軒の村に建つケータイ電波塔 四本目
                        山口県岩国市 木村 桂子
  • 足跡は確かにここで消えている金魚が泳ぐ電話ボックス
                        長野県塩尻市 熊井 ゆり

奨励賞(永田和宏 選)

  • 亡骸を塹壕に抛る映像が場違いのごと茶の間に届く
                        大分県豊後大野市 菊地 孝也
  • 昼休み校長室は満席だクイズ手に手に不登校児も
                        長野県木曽町 新村 亮三
  • その池がもし浅くとも深くともその水面に映るのが君
                        東京都練馬区 阪口 拓史
  • 芍薬の硬き蕾が開くよう反戦話すロシアの学生
                        長野県千曲市 關 津和子
  • 不機嫌をまといて帰宅せし夫に20デシベル上げて「おかえり」
                        神奈川県横浜市 大曽根 藤子
  • ポロポロとシクシクの差を保育士は園児のように演じてみせる
                        茨城県つくば市 芳山 三喜雄
  • 軍用車の前にキーウの人垣がじわりロシアを押し戻しゆく
                        兵庫県尼崎市 池田 和子
  • いそしぎが遊ぶ浜辺に竜骨をさらして小舟は波にたゆたふ
                        東京都葛飾区 池崎 冨実夫
  • パパママは大丈夫かな初めてのお泊まりの夜孫はつぶやく
                        大阪府高槻市 関谷 佐代子
  • その話何度も聞いたと言わないで何度も言いたき心をきいて
                        長野県辰野町 若尾 途志
  • 先生と呼ぶ人がいて母さんと呼ぶ人もいてどれもがわたし
                        三重県津市 田中 亜紀子
  • 烏龍茶の烏(うー)が鳥ではないことをはじめて知った四十の夏
                        長野県安曇野市 茅野 勇史
  • 電話にて安否尋ぬるすべもなしキーウの友のいかにあるらむ
                        福島県福島市 今野 金哉
  • どんなことでも打ち明けてしまいそう君と秘密の糸電話なら
                        三重県桑名市 小林 寛久
  • 引出しに大学時代の電話帳番号前に(呼)あまた付く
                        和歌山県和歌山市 中尾 加代
  • 駅前の公衆電話に聞く君の声に足らへる恋でありたり
                        群馬県みなかみ町 眞庭 義夫
  • 糸電話くらゐの距離がちやうどいい珈琲飲むつて聞けるくらゐの
                        香川県多度津町 藪内 眞由美
  • るす電に長々はなしかけれども返信はいつも「了解」の息子
                        新潟県妙高市 高島 みつえ
  • 研修は電話応対からだったコピーお茶汲み去りゆく昭和
                        長野県松本市 唐澤 信子
  • 下宿屋の電話機傍の砂時計落ちきるまでのきみの近況
                        岡山県津山市 矢野 康史
  • おおおおと言うのみなれどほのぼのと温(ぬく)もりてくる父への電話
                        広島県東広島市 藤川 幸雄
  • 亡き父よあの日あなたが取り次いだ電話の人こそ今の我が夫(つま)
                        神奈川県横浜市 遠藤 真理子

奨励賞(小島ゆかり 選)

  • マネキンの着ていた服を今日も着るだんだんわたしの服になってく
                        三重県多気町 笹木 和子
  • 「すみません」人に頭を下げ過ぎて母はマシュマロみたいになった
                        兵庫県川西市 木内 美由紀
  • グローブの形のクリームパンを買い楽しくなる日風も夏めく
                        富山県富山市 松田 わこ
  • ポロポロとシクシクの差を保育士は園児のように演じてみせる
                        茨城県つくば市 芳山 三喜雄
  • 剃りのこすひげぽちぽちと白くなりおやじおじいの顔につらなる
                        東京都豊島区 田中 国博
  • 野火の跡かくるるほどに草の萌え肥後の赤牛明けの野に鳴く
                        大分県別府市 佐藤 信二
  • きさらぎの障子明かりに絹裁てば絹の声する形見の着物
                        埼玉県さいたま市 三石 敏子
  • ズンズンと雪降り積もるこんな夕べ不登校の児に会ひに来る教師
                        長野県坂城町 水木 千草
  • 雨あがり舗道に拾ふイヤリング フェルメール描きし絵よりこぼれて
                        長野県安曇野市 平井 満
  • 先生と呼ぶ人がいて母さんと呼ぶ人もいてどれもがわたし
                        三重県津市 田中 亜紀子
  • 十円が次々落ちる赤電話告白いつも早口言葉
                        愛知県刈谷市 近藤 圭介
  • 留守電に「父さん、やっぱりだめでした」母は短い言葉を残す
                        新潟県新発田市 飯田 英範
  • 引出しに大学時代の電話帳番号前に(呼)あまた付く
                        和歌山県和歌山市 中尾 加代
  • 鳴るたびに家族の皆が耳立てる恋する遠き日の黒電話
                        愛知県岡崎市 西村 愛美
  • 懸命に向かひゐるかも知れぬから母への電話は二十五鳴らす
                        和歌山県和歌山市 高岡 淳子
  • 今は無き実家の電話番号がふと浮かんでは流れゆく雲
                        北海道稚内市 及川 文子
  • 下宿屋の電話機傍の砂時計落ちきるまでのきみの近況
                        岡山県津山市 矢野 康史
  • ダイヤル式電話あっさり外す甥 ほんたうに姉が逝きてしまへり
                        愛知県岡崎市 磯谷 澄子
  • 逢ふこともなければひとことお別れのあいさつしますと間違ひ電話
                        福岡県福岡市 能塚 節男
  • ブルサールメウッチエジソンベルグレイ電話の発明現代(いま)に繋がる
                        長野県安曇野市 茅野 勇史

※短歌に関しましては、原稿を忠実に掲載することを基本といたしました。
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