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第37回 全国短歌フォーラムin塩尻 入賞作品

第37回全国短歌フォーラムin塩尻入賞作品を発表します!
全国から1,651首のご投稿をいただきました。誠にありがとうございました。

最優秀作品

  • 息子なのにどこかドラマの息子役病みたる母の繰り言を聞く
                        北海道 伊達市 中村 英俊
    ▲評 永田 和宏
    病む母の繰り言を辛抱強く聞いている自分。息子であるからには違いないのだが、まるで息子の役を演じているような自分に、こんなことはこれまでなかったのにと驚いている。

 

  • 君にしかわかりっこない本棚の並びに君の人生がある
                        兵庫県 神戸市 齋賀 万智
    ▲評 小島 ゆかり
    本棚にどんな本が並んでいるかではなく、その並びに、君を、君の人生を感じるのだ。「君にしかわかりっこない」という日常語の表現が、この真実に独特の魅力をもたらした。

優秀作品

  • 採れたてのたらの芽天ぷら抹茶塩身体の中から春色になる
                        長野県 塩尻市 石井 麻美
    ▲評 佐佐木 幸綱
    たらの芽の天ぷらの新鮮な緑色と、抹茶塩の緑色。色彩をクローズアップしてシンボリックに春を表現して見せたアイディアに注目しました。おいしそうな点もいいですね。
  • 旅終へたトラック洗ふドライバー気持ち良さげに自分も洗ふ
                        新潟県 長岡市 佐藤 多佳子
    ▲評 佐佐木 幸綱
    長時間運転を続けてきたトラック・ドライバーが、仕事を終えてリラックスした場面に取材。取材感覚がいいですね。結句「自分も洗ふ」のユーモアに感心しました。
  • 定規当て蛍光色の青を引く近くで見れば揺れている海
                        京都府 京都市 砂原 瑞風
    ▲評 小島 ゆかり
    「近くで見れば揺れている海」という発見の力に驚く。そしてその発見が、上句の日常的事務的な行為の背後にある、世界の別の見え方を暗示する。詩性ゆたかな秀歌。
  • 本音ではなくやさしさで出来ている糖衣のような君のいたわり
                        石川県 金沢市 渡邉 美愛
    ▲評 永田 和宏
    とてもやさしくいたわってくれる君。しかしそれはどこか糖衣をまとったようなやさしさであることにも、作者は気づいている。あなたの本音がみたいと、ちょっと贅沢な、でも切実な願い。
  • 言の葉の森への扉ひらくとき小田急線は新宿を出る
                        静岡県 浜松市 菅本 勇馬
    ▲評 佐佐木 幸綱
    取材した場面の意外さ、新しさ。本を持って小田急線に乗り、発車と同時に読みはじめた場面。小田急は終点が遠いので、本を読む時間はたっぷりあります。
  • 友だちも「バケモノの子」の本を読む三百七のページがすごい
                        京都府 舞鶴市 新谷 和花
    ▲評 小島 ゆかり
    映画にもなって大人気の「バケモノの子」。友だちどうしで盛り上がったにちがいない307ページ!どんな場面なのか。歌を読む人もわくわくさせてしまう、すばらしい作品。

入選作品

  • 古本の栞代わりかコンビニのレシート一枚杏仁豆腐
                        北海道 札幌市 後藤 明美
    ▲評 小島 ゆかり
    手にした古本に、コンビニのレシートが挟まっていたのだ。そしてそこには杏仁豆腐を買った記録が記されている。見知らぬだれかの、妙に親しい日常を垣間見るおもしろさ。
  • 町内に指名手配書貼り出され捜査始まる愛犬ゴンゾウ
                        群馬県 みどり市 志田 貴志生
    ▲評 小島 ゆかり
    町内のあちこちに貼られた、行方不明の愛犬の写真付き捜索願い。祈りの気持ちの一方で、「指名手配書」と犬の名「ゴンゾウ」とのマッチングに妙なユーモアが生まれた。
  • 城ひとつ滅びしあとの本丸の石の標に秋の雨ふる
                        群馬県 みなかみ町 眞庭 義夫
    ▲評 永田 和宏
    たった一つ、本丸があったとの標が残っている。そこに降る雨を見つつ、作者は、もとあった筈の、そして今は滅びてしまった城全体を確かに感じ取り、それを正目に見ているのである。
  • 梅雨ふかき図書館にいて少年は忍者にこころ惹かれていたり
                        埼玉県 朝霞市 松本 志李
    ▲評 小島 ゆかり
    そこが「梅雨ふかき図書館」であることと、少年が「忍者にこころ惹かれて」いることとは、関係がないようなあるような。そんな表現の不思議を感じさせてくれる一首。
  • 古書店の主人は奥で睨みゐる本を売るより守るがごとく
                        埼玉県 日高市 横田 武志
    ▲評 小島 ゆかり
    「本を売るより守るがごとく」奥で睨んでいる古書店の主人。売ってたまるかという心の声まで聞こえてきそうだ。本を愛してやまないそのたたずまいが、よく表現されている。
  • ペラッペリッめくる音が聞こえたら君がいるって思っていいかな
                        千葉県 習志野市 山村 柚樹
    ▲評 永田 和宏
    勢いよくページをめくるのは、君のいつもの癖だった。そんな音が聞こえたら、そこにはいつも君がいた。君がいることを音で感じ取りたいがために、図書館に通ったのだろうか。
  • 本当に良い人でしたねと過去形で言はるる夫となりて三年
                        東京都 青梅市 荒井 千枝
    ▲評 永田 和宏
    亡き人を褒めて発せられる言葉、「良い人でしたね」は、それが過去形であるだけに、夫をいまも身に近く感じている作者には、辛い言葉である。夫を遠くへやってしまう言葉なのだから。
  • 本棚の埃が煌めく所には夫の青春眠っています
                        東京都 青梅市 古賀 のり子
    ▲評 永田 和宏
    本棚の一角、埃が積もって、光に煌めいている場所がある。そこには夫の愛読書が詰まっている。まさに夫の青春の日々とともにあった本たち。作者にとってはいつまでも残したい、大切な場所。
  • 醸造というより蒸留さみしさはひとしずくひとしずく生まれて
                        東京都 豊島区 中尾 亜由子
    ▲評 永田 和宏
    いったん気化させた液体を再び液化させ、不純物を取り除くのが蒸留。そうして純化されたさみしさは、まさにひとしずくひとしずく生まれるようだ。鈍感な醸造とは全く違うと、作者。
  • 五月来て少し慣れたる一年生みな若葉なりキラキラそよぐ
                        神奈川県 横浜市 堀 亜紀
    ▲評 佐佐木 幸綱
    四月に入学して五月になったころの小学一年生をうたっているのだと思います。いきいきとした感じを表現した「みな若葉なりキラキラそよぐ」が秀抜。
  • 触れたなら崩れてしまふ十六のあなたの中にだけある岬
                        山梨県 都留市 山本 栞
    ▲評 永田 和宏
    岬は精いっぱい自分を引き延ばし、突き出しているところ。十六歳のあなたにある、十六歳なりの岬。それは触れればたちまち崩れてしまう危うさを孕むが、作者はそれを大切に見守っている。
  • 思い出が線から点に変わっても星座のように見つけてほしい
                        長野県 安曇野市 百瀬 糸乃
    ▲評 永田 和宏
    時間の経過とともに、一連のものとしてあった恋人との思い出も、やがて点としてしか思い出せなくなる時がくる。そんな時でも、星座の点のように見つけ、思い出して欲しいと願う。
  • 母の読む童話の録音聞いてゐた鍵つ子あの子が母となるとふ
                        長野県 岡谷市 北原 夕子
    ▲評 佐佐木 幸綱
    小学生だった「あの子」が結婚するまでの、長い時間の物語がうたいこまれた一首です。ということは、「あの子」の物語とともに作者の物語も自然に読者に伝わります。
  • クレープをほおばり祖母とみた花火を今年は祖母を想い見上げる
                        長野県 塩尻市 小野 春佳
    ▲評 佐佐木 幸綱
    去年は健在だった祖母を思い出しつつ、今年の花火を見ているというのです。上句「クレープをほおばりながら」の具体性が、想い出のリアルさを印象的に表現しています。
  • 階段の大歳時記の装丁の金は剥がれて五百十円
                        長野県 塩尻市 上條 弘夢
    ▲評 小島 ゆかり
    古本屋の中だろうか。階段に積まれている「大歳時記」を、「装丁の金は剥がれて五百十円」と具体的に表現したことにより、がぜん存在感が生まれた。主観を言わない魅力も。
  • さよならを言うあなたから教わった夜の間も桜は散ると
                        長野県 塩尻市 田岡 将平
    ▲評 小島 ゆかり
    あなたがさようならを言うそのとき、夜の桜は散り続けていたのだろう。そして思い出すたびいまも、夜の桜は散り続けているにちがいない。簡潔な表現のなかに詩の世界が展がる。
  • 七色(なないろ)の声を使って絵本読む鬼にもなるしペンギンにもなる
                        長野県 塩尻市 中山 由美子
    ▲評 佐佐木 幸綱
    まだ字が読めない子に本を読んでやっているのでしょう。「鬼にもなるしペンギンにもなる」の具体性に説得力があります。声だけではなく表情や動作も思い浮かびます。
  • 脱ぎ捨てた数日分の靴下がおたまじゃくしのように集まる
                        富山県 滑川市 芥舟
    ▲評 佐佐木 幸綱
    一人暮らしなのでしょう。まとめて洗濯すればいいや、そう思っているのだと思います。下句、遊んでいる感じがいいですね。とくに「集まる」という動詞が楽しい。
  • 夢うつつのいもうとが抱く絵日記にまだ描きかけの初恋のひと
                        石川県 金沢市 渡邉 美愛
    ▲評 佐佐木 幸綱
    妹の初恋が本当の恋と言えるかどうか、微妙なところだという意味なのでしょう。「絵日記にまだ描きかけの初恋のひと」というフレーズがぴたっと決まっています。
  • 外来の外と来とはヒトのせい空港跡のながみひなげし
                        静岡県 浜松市 尾内 甲太郎
    ▲評 永田 和宏
    外来種で、他の植物の生育に悪影響を与えると言われるナガミヒナゲシ。しかし、外来種とはヒトが勝手に言っているだけで、植物自身には何の責任もなく、外も来もないのだと、作者。
  • 水性の愛で描いた恋ならば雨にさらしてしまいたい 痛い
                        静岡県 浜松市 菅本 勇馬
    ▲評 永田 和宏
    水で消えてしまうような「水性の愛」なら、そんな恋はいっそ雨で消してしまいたい。雨でも消えない愛が欲しいのに。下句「さらしてしまいたい」の後の三音を「痛い」が受けている。
  • 図書館の書架の一冊ぬきとれば本の幅だけ海が見えたり
                        愛知県 名古屋市 清水 良郎
    ▲評 永田 和宏
    書架に並ぶ図書館の本。それを一冊抜き取った時、その向こうに海が見えたという。海は全体ではなく、一冊の「本の幅だけ」の海が見えたというところがうまい。
  • 本好きの島びとが待つ興居島(ごごしま)へフェリーで航(わた)る移動図書館
                        滋賀県 大津市 船岡 房公
    ▲評 佐佐木 幸綱
    移動図書館の歌が何首かありましたが、これは愛媛県・松山市沖の興居島へフェリーでわたる移動図書館。船で移動する図書館は珍しいので、見てみたい気がします。
  • 遠足におやつを用意するように通勤用に選んでる本
                        大阪府 堺市 一條 智美
    ▲評 佐佐木 幸綱
    最近は通勤の車中でスマホを見る人が多いようですが、それでも少数ながら読書する人もいます。「遠足におやつを用意するように」という比喩が楽しい一首です。
  • 百冊の漫画を書架に戻す孫受験終わりて戻す日常
                        大阪府 泉佐野市 米谷 茂
    ▲評 佐佐木 幸綱
    受験のため漫画本を書架から別の場所に移動しておいたのですね。受験が終わってもとに戻す孫。それを黙って見守る作者。作者の沈黙が一首のポイントでしょう。
  • 牛の子に読んであげると本探す一年生いて 峠の図書館
                        鳥取県 琴浦町 中本 久美子
    ▲評 佐佐木 幸綱
    峠の図書館で牛に本を読んで聞かせたいと、牛の好きそうな本を選んでいる小 学生を見た、というのです。ふと現実から幻想の世界へ迷い込んだような楽しさ。
  • みつばちの一生分の働きを今朝の紅茶に入れたよ ごめん
                        岡山県 岡山市 平尾 三枝子
    ▲評 永田 和宏
    一匹のミツバチが生涯かけて集める蜜の量は、スプーン一杯分だという。そんな一つの命の一生の働きを、朝の紅茶一杯で飲み干してしまうというニンゲン。結句「ごめん」が効いている。
  • アドレスに0806持つスマホG7近づく広島に住む
                        広島県 福山市 浜田 光夫
    ▲評 小島 ゆかり
    アドレスのなかの「0806」は、その日を決して忘れないという意思表示にちがいない。G7への思いを至近距離から詠んだ一首。事実だけの表現に、強い眼差しが感じられる。
  • 夏の日の老人たちの飲み会はのれんを出ても陽はまだ残る
                        山口県 光市 松本 進
    ▲評 小島 ゆかり
    かつては夜中まで飲み歩いたのかもしれない仲間たち。しかしみな老人になりお開きも早い。内容もリズムも肩の力を抜いた自然体の表現に、なんともいえない味わいがある。
  • 寝かさるる曽孫(ひこ)を覗きて族(うから)らが競り市のごとその顔語る
                        大分県 臼杵市 佐世 弘重
    ▲評 小島 ゆかり
    「競り市のごと」という表現が圧倒的におもしろい。曽孫を覗き込み、鼻はママそっくりだ、耳の形はおじいちゃんだとにぎやかに言い合う。ユニークで新鮮な家族の歌。

奨励賞

  • 青色のクレヨンばかり減っていく夏の絵日記ソーダしゅわしゅわ
                        北海道 札幌市 後藤 明美
  • アイヌ語を君に教わる夕まぐれリフレインするイヤイライケレ
                        北海道 札幌市 住吉 和歌子
  • Lサイズジップロックで愛情を小分けにしても収まりきらない
                        青森県 弘前市 畠山 来夢
  • 陽だまりに居眠りせし猫二匹捨てられしこと忘れおるらし
                        岩手県 洋野町 酒井 久男
  • 群馬ではバイクと呼んで高知ではモーターと呼びどちらも短気
                        宮城県 仙台市 角田 正雄
  • 胃カメラを呑む寸前に女医さんが「WBC」の話はじめる
                        福島県 西郷村 黒澤 正行
  • 春の田に水が入れば白鷺のどこからとも無く集まりてくる
                        福島県 いわき市 小関 忠彦
  • 優しげな少女のやうな美声にて苗の補給を知らす田植機
                        茨城県 常総市 渡辺 守
  • 冷やっこ濃口醬油ちょっとかけ喉がなるなりぬる燗よろし
                        埼玉県 日高市 横田 武志
  • ふるさとの訛言葉を国技館の枡席に聞くすぐ後列に
                        埼玉県 所沢市 若山 巌
  • 荒海を背負いて叫ぶや口説き節「八百屋お七」が瞽女の十八番ぞ
                        東京都 葛飾区 上原 厚美
  • 六月の死者に今なほこだはりぬ樺美智子は六月の死者
                        東京都 杉並区 庭野 治男
  • 大風にとばされてくる森ひとつ永遠の中そんな日もある
                        東京都 練馬区 涌井 ひろみ
  • 黒ネクタイ緩めてなす天争奪戦祖父を囲んだ忘れ得ぬ夏
                        長野県 塩尻市 赤羽 明恵
  • おひさまがしずんでいくよあぁ、きれいたまごのきみをお山がたべた
                        長野県 塩尻市 岡本 圭史
  • 花見より新生活の慌ただしさふとたたずむと夏の訪れ
                        長野県 塩尻市 清水 柚果
  • 縦横無尽、ラッパーの手首は白くて細くて光って見えた
                        長野県 長野市 三石 友貴
  • ふんわりと硫黄の匂う皮膚を着て電車にゆらるアルプス帰り
                        新潟県 魚沼市 磯部 剛
  • 恋バナが一段落して妹は「父の日どうする」口パクで言う
                        富山県 富山市 松田 梨子
  • 初夏の風交差している国技館力士と力士弾き合う音
                        富山県 富山市 松田 わこ
  • 生きまつせまつせまつせとさみどりの歓喜のこゑに山は目醒める
                        静岡県 静岡市 杉山 春代
  • 空の青鈴鹿嶺の碧(あを)麦の緑(あを)ネモフィラの藍(あを)カンバスに春を
                        三重県 東員町 尾﨑 淳子
  • 仁徳陵古墳の中に古墳あり琵琶湖と余呉湖もそういう仲か
                        三重県 津市 中川 政郎
  • トンカカカ、トンカカトンと釘打ちて島の舟造り老ひが守りゐる
                       三重県 志摩市 廣岡 光行
  • 「外燈」を孤りで視ていた亡き父に今ごろ寄り添う墓参(ぼさん)なんかして
                        大阪府 高槻市 小野 まなび
  • ガス代の知らせの裏に書いてみた「未練」の文字の美しいはらい
                        大阪府 池田市 土田 真弓
  • 丁寧語ギャル語方言カタカナ語寝息も混ざり職場の会議
                        兵庫県 川西市 木内 美由紀
  • 地蔵前の一日(ひとひ)二便の時刻表バス待つように前屈たもつ
                        愛媛県 松山市 眞部 孝司
  • 革ジャンに手を通さない三年間更衣の季節にふとも思へり
                        福岡県 久留米市 栗林 喜美子
  • 本を読むわれとビデオを見る妻が言葉を交はしまた戻りゆく
                        北海道 帯広市 鎌田 博文
  • ほんとうの気持ちが混ざらないように定型文で綴る祝電
                        宮城県 仙台市 増渕 絵理
  • 獄窓の歌人の本を読みながら次第次第に心波打つ
                        茨城県 美浦村 茂呂 典正
  • 「本当にマンタは空を飛ぶんだよ」図鑑広げる親子図書室
                        栃木県 さくら市 青木 一夫
  • 離れ住む絵本の好きな孫いかに畑に大きなかぶ育ちたり
                        栃木県 佐野市 五十部 澄子
  • 転校の春逃げ場所は図書室の「神曲」のなか窓辺の席に
                        埼玉県 さいたま市 三石 敏子
  • 海底に棲息するごと古書店はシャッター通りに発光してゐる
                        埼玉県 鴻巣市 渡邉 照夫
  • 羅生門つまらなそうに読む姉の横顔こそが文学だった
                        千葉県 千葉市 芍薬
  • 無造作に積まれし本が崩れ落つ貴方の部屋にかわす口づけ
                        東京都 東村山市 関根 高志
  • 晶子には許してもらおう『みだれ髪』尻のポケットに入れて歩くを
                        東京都 練馬区 新美 喜代男
  • クレペリン検査結果の「一本気」少女のころからいまだ変わらず
                       東京都 国分寺市 森田 小夜子
  • 下巻だけ手元にあるが永遠に君に返さぬ それでいいのだ
                        神奈川県 横浜市 大曽根 藤子
  • 薄給の父が揃えし大言海みすみす置きて引揚げにけり
                        神奈川県 川崎市 星 陽子
  • パラパラと開いて閉じて枕元わたしの物となる新刊本
                        岐阜県 飛騨市 江尻 恵子
  • 「本当にこうちゃんですか」と問い返す十二桁なる電話の主に
                        愛知県 名古屋市 江崎 ヤヨヒ
  • 古書市の人目につかぬところでは本が泣いたり笑ったりする
                        三重県 名張市 相川 高宏
  • 返された新書から付箋がのぞいて感想戦か望むところだ
                        京都府 京都市 小池 弘実
  • 織田作も折口信夫も通ひたる古本大学「天牛書店」
                        京都府 京田辺市 福田 正人
  • 冷房の部屋では読めずだらだらと汗かきながら読む『黒い雨』
                        大阪府 池田市 黒木 淳子
  • ひとりなり午前三時に起き上がりストール捲きて本を読み居り
                        和歌山県 和歌山市 足立 節子
  • ケンカして泣いたら彼が、本読んで泣いたら月が、私に寄るの
                        岡山県 瀬戸内市 小橋 辰矢
  • 本棚はSF本で埋まってる在りし日夫の並べたままに
                        山口県 宇部市 あやべし
  • 読み終えて閉じたページの間から登場人物踊り出てくる
                       山口県 山陽小野田市 谷岡 計甫
  • 徘徊と見られたくない老人は本を片手にベンチに坐る
                        徳島県 阿南市 小畑 定弘
  • 「連絡船うどん」うまかった本州と四国を繋ぐ橋の無き頃
                        香川県 さぬき市 五井 修子
  • 歌詠むと手帳を広げて名古屋から松本までをほとんど眠る
                        高知県 須崎市 徳永 逸夫
  • 三橋美智也テレビ叩けば歌い出す本より小さき画面の時代
                        福岡県 福岡市 六月朔日 光

※短歌に関しましては、原稿を忠実に掲載することを基本といたしました。
ただし、ホームページ上で表示できない文字(旧字体など)につきましては、表記を変更しております。ご了承ください。